昨年末に、映像で日本を元気にしようと頑張っている、㈱ブロックスさんの頭で仲良くしてもらっている西川さんから、知恵の場と言うセミナーの出番を頂きました。
その際に、受講者の方から質問があって、自分の会社でのいい話をしようと思うけど、香取さんの中でエピソードはありますか?ってのがありまして、その時に“携帯電話”のお話や、“車屋さんの想い出”をお話したので今日はその車屋さんの想い出をお話しましょう(^^)/
僕の親父はもともと職人だったんです。
その職人の親父が仕事でも使う車だったんだと思うんだけど、新車を買ったんですよね。
真っ白のライトバン。運転席と助手席の窓には三角窓があって、そっから風を入れるようになってて。
そしていつも通り親父が仕事が終わって、夕方帰ってくるなり
「貴信っ‼
貴信っ‼
ちょっと来い」
って、平屋の長屋の家の玄関から大声で僕を呼ぶんです。
当時、僕は3歳ぐらいだったと思うんですが、大好きだった親父が帰って来て大声で呼ぶから、きっとまた何か楽しいことがあるんだろうなって、奥の畳の四畳半から走って玄関に向かうと、その太い片腕で僕を抱き上げ、今でも覚えてるけど、嬉しそうな顔して言うんですよね。
「父ちゃんお帰り~」
「おう、今からお前にすげぇの見せてやるかなっ‼」
「すげぇの~」
「おう、びっくりすんぞ‼
ほらっ‼」
僕の家は長屋の奥だから、そっから片手で僕の事を抱きながら表の通りの前に歩いて行くと、そこにはピカピカの真っ白なライトバンが置いてあったんです。
「うぁ、これ父ちゃんのなの?」
「おう、今、買ってきたホヤホヤだぞ」
「ホヤホヤ?」
「貴信、お前を一番最初に乗せてやるからな」
そう言って親父は、助手席のドアを開けると、まだ座席にビニールが被ったそのビニールを、豪快にびりびりと引きちぎって、僕を抱き上げて破ったばかりの助手席にちょこんと座らせてくれました。
「どうだ、すげぇだろ‼
父ちゃんが乗ってた今までのおんぼろじゃねぞ‼
今、来たばっかりのまっさらだぞ。
どうだ、いいだろ?」
当時の自分は幼すぎて、親父が何を言っているのかわかんないけど、とにかく親父が嬉しそうにしてるのを見て、なんだか自分も嬉しっくて。すげぇ、すげぇって連呼してました。また、その僕の姿を見て、親父もそうだろう、そうだろうってご満悦(笑)
すると奥から母ちゃんが現れ、親父は母ちゃんにカメラを持って来るように言って、また僕を抱き上げて今度はその車のボンネットの先っちょに僕を座らせて、その横に立ち、母ちゃんに車と僕と親父の写真を撮らせました。
「なぁ、貴信。
この車でドライブに行くぞ。
どっか行きてぇとこ、あるか?」
「うん、俺、飛行機が見てぇ」
「う~ん、飛行機か……、よし、行くぞ」
そう言って僕を助手席に乗せて、カーラジオを流しながら、ご機嫌で羽田空港へ
着いた頃には日も暮れれてて、それでも羽田空港の展望デッキで肩車をしてくれて、初めてまじかに見る飛行にに大興奮。
「父ちゃん、飛行機‼ 飛行機‼
大きいねぇ~」
「おう~初めて見るけど、飛行機ってのは、でけぇんだな~」
「父ちゃん、俺、飛行機のりてぇなぁ」
「おう、父ちゃんも乗ってみてぇなぁ~
一体、中はどんなんなってんだろうな~」
「うん、どうなってんだろうね~。
父ちゃんは飛行機乗った事ねぇの?」
「あぁ、ねぇな。新幹線も乗った事がねぇ。
でもよ、貴信。いつか、飛行機も新幹線も乗せてやっからな‼」
「ほんと」
「ほんとだよ。約束すんぞ。
男と男の約束だ。絶対にのろうな‼」
「うん‼ ありがとう」
「おう」
その約束は果たせないまま、その後親父は僕が7歳の時に胃がんでなくなってしまいました。
きっと親父も飛行に乗ってみたかったんだろうなって思うと、だから今自分が移動をする時に、先ずは飛行機飛んでねぇかなって探してしまうのかも知れません。
羽田空港の帰りは、小さかった僕を膝の上に乗せて、くわえたばこで買ったばかりの車で家に帰りました。
今考えると、新車と言っても商業車のライトバン、決して高級外車でもなんでもない、ただの真っ白のライトバンですが、当時の自分にとっては親父と同じタイプの車が通るたびに、あれは父ちゃんのと同じかなって興味を持って観てました。
その後も親父が入院するまでは、休みの日曜日になると、朝早く起こされて俺を助手席に乗せて、海に行ったり山に行ったり、釣りに連れてってもらったっり、とにかく家に居た想い出が何もないくらい、いつも親父と白いライトバンは一緒でした。
当時はエアコンなんてついてないから、夏になると送風をガンガンにして、三角窓を押して、助手席の窓はくるくる回す本当のパワーウィンド(笑)なんで、運転席から親父が手を伸ばしてぐるぐるして、窓を全開にして色んな場所に連れて行ってもらいました。
そして、自分にも子供が生まれ、やっと自分で新車を買えた時、自分の子供達に同じ事をするんですよね。
「虎之介、今日来たばっかのホヤホヤだぞ」
そう言って、息子をボンネットの先っちょに座らせて、当時の親父と同じように写真を撮ってる自分がいます。
車を造っている人たちは車を造っているし、販売している人は販売するのが仕事です。でも、その先にあるのはどんな車でも、新車だろうが中古だろうが、そこには想い出があるんです。きっと全ての仕事はそこに繋がっているじゃないかなって思うんですよね。
販売のとこでは、売り上げ目標があって、目標必達ってことで何台も売らないといけないのだけど、その一台一台に色んな物語があるんです。車屋さんは車を売ることは手段であって、本当に売っているのはその先にある想い出だったりするんじゃないでしょうか?
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