2020年1月31日「すべらない話~ボケ老人じゃねぇよ~」

これはまだディズニーランドでアルバイトをはじめて、初めての夏のお話です。
当時の自分は16歳で始まったこのアルバイトで、働く意味がなんなのかもわからないままに働いている時だったと思います。

夏の暑い日、空飛ぶダンボのアトラクションの待ち行列を担当していた僕は、暑い中50分も並んでいるゲストのいらだちも感じつつ、自分も暑さからイライラがピークに達しようとしていました。

長~い列の奥の方で、子供の「いやだー」って泣き叫ぶ声が……。
なんだと思って声がする方に目をやると、何やら長い待ち時間で子供達も疲れていたんだと思います、あともう15分ぐらいで乗れる位置にいる家族の中にいた5歳ぐらいの男の子が、列の中でなにやら駄々をこねているようでした。もうすぐ乗れるのになんだよと思いながらも、僕は列の中に入っていきました。

「おぉ~どうしたぁ~?」
「すみません。なんか騒がせちゃって
暑くて眠くてあきちゃったみたいで……」
「あぁ、大丈夫ですよおかあさん。
そっか、嫌んなっちゃたのか。そりゃそうだよな、暑ぃしな。でももうすぐゾウさんにのれんだけどなぁ」

駄々をこねる子も地面に寝っ転がり、手足をバタバタ……。
おかあさんの方も、もっと小さい子を抱っこしながらだから、その子を抱っこしてあげられず、列がそこで止まってしまっていたので、取りあえず列を流さなきゃいけないから、その家族を列の外へ……。

「そっか、そうだよな、暑いよなぁ、もう乗りたくねぇんだよな」
「……」
「わかった、わかった、そしたらよ、また後で来いよ。名前はなんて言うの?」
「……○○」
「そっか、○○、俺さここにまだまだ居るし、他のやつにも言っておくからさ、後でまた来たらいいんだよ。
そんで、名前言えば、並ばねえですぐに乗せてやっから、なっ、そうしようぜ」

そう言って何とかなだめながら、列から離れてた日陰のところへ連れて行きました。
そして、おかあさんに、せっかく並んでもらってたのに外に出してしまって申し訳なかったことと、今の状況だと楽しく乗れないだろうから、息子さんの機嫌が直ったら、いつでも来てもらって、入り口で名前言ってもらったら乗れますからと約束しました。もちろんあ母さんの方はびっくりしてましたから、これは内緒で他で言わないでねと、バレると俺が勝手なことして怒られるからって事は伝えました(笑)。

「そしたら、その裏の建物の中にあるお店なら涼しいし、この子が喜びそうな子供のおもちゃもあるんで、そこでちょっと涼んで、遊んでもらって、ご機嫌直ったら来てくださいよ。
もし、俺がココに居なかったら、誰かしら立っているんで、そのキャストに俺の名前カトリから名前言ってくださいって言われましたって言ってもらって、この子の名前も言ってもらったら、並ばず乗れるようにしときますから」
「本当にありがとうございます。ほんとに助かりました」

ゲストはそう言って、何度も頭を下げながら案内したお店の中に入っていきました。
なんでそんな事が当時の自分に思いついたんかって言うと、とにかく列の仲での騒ぎを納めたかったし、何より子供の泣き叫ぶ声で、自分のイライラが爆発しそうだったからなんですよね……(反省)。

そのゲストを見送って持ち場の方に帰えろうと、振りかったその時でした。
自分の前に自分よりもデカい、スーツを着たお爺さんがいました。
するとその人が、僕に向かって声をかけてきたんです。

「カ ト リ、カトリさんでいいのかな?」
「(うんだよ、このクソ暑い時に話かけんなよ……)えっはい……カトリですけど……」

「今のカトリさんの応対はすごくよかったね~。
きっとあのお母さんは助かったと思うよ~。ありがとねぇ」
「……あっ……はい。(なんだこのじいさん? それになんでお前からお礼いわれんだよ……。ってか、あんた誰だよ)」

「暑いけどね、これからも頑張ってね」
「……はぁ……ありがとうございます……」

ちょっと変わったそのスーツ姿のおじいさん……。
胸を見たらネームタグが付いていたので、きっと社員かなんかでエライさんなんだろうなって事は、当時の自分もわかりましたが、ただどこの誰かもわからない人から、褒められたところで……って思ったのも事実でした……(ほんとにすんません)

そしてそのスーツ姿のおじいさんの後ろ姿を目で追っていくと、そのおじいさんはスモールワールド方向へ歩きながら、なんと地面に落ちているポップコーンやゴミを拾って、ニコニコしながら自分のスーツのポケットに拾ったポップコーンやゴミを入れていたんです。

えぇ~。
何やってんだあのじいさん やばいだろ
そして僕は直ぐに先輩たちの待機している所へ

「先輩、やばいっすよ
「うん、どうした?」
「今、スーツ着たでっかい爺さんに褒められたんっすけどね」
「えっ、香取が褒められたの? すごいじゃん」

「いや、違うんすよ。
その爺さん、ちょっとやばくて、ネームタグ付けてたから、社員とかえらい人だとは思うんすけど、俺を褒めた後に、地面に落ちてるポップコーンとか拾って、それを自分のスーツのポケットに入れて歩ってるんすよ。
後で食べようとか思ってんすかね。あれきっとボケてんじゃないっすか?
あのボケ老人そのままだったらヤバくないっすか?」

「……うん? それってどんな感じの人だった?」
「う~ん、背が俺より高くて、痩せてて……」

「お疲れ様~。
ねぇねぇ、さっき髙橋さんが居たでしょ」
「え、高橋さんって誰っすか?」

「香取、お前知らねぇのか?
うちの会社の社長だよ」
「社長?」
「そうだよ、背が高くて、痩せてて……
あっ

「あっ

「香取が言ってたボケ老人って、高橋さん、社長だよ
「えぇぇぇぇぇぇぇ~(恥)」

「お前、社長の事をボケ老人って、ヤバイのはお前だろ(笑)」
「わはははっ(一同)」

当時自分は、自分の会社の社長なんて見たこともなくて、せっかく社長に褒めてもらったのに、その社長をボケ老人呼ばわり……。今想いだしても、顔から火が出ます。高橋さ~んごめんなさい。