親父を小学校の1年生で亡くした僕は、母親に一人で育ててもらいました。
親父が居た時も決して裕福ではなかったのですが、親父が死んじゃってからはほんとに貧乏に……(笑)
だからヤンチャしてたけど、自分の使う分は自分で稼がないといけなかったんですね。
なので、ディズニーランドのアルバイトをやりながら、ガソリンスタンドでもアルバイトをしていました。
ガソリンスタンドでは、最初に先輩から、お客様の車が入ってきたらでっかい声で『いらっしゃいませ~』って帽子を取って駆けつけろと、そして帰るお客様の車を車道へ誘導して、出ていく時にでっかい声で『ありがとうございました』って帽子を取って頭を下げて、止まってくれてた後ろの車にも『ありがとうございます』と帽子を取って頭を下げるんだって教わりました。
しかし、当時の自分はそこに文句を言ってやらないで怒られていました。
「基本的によ、車の窓を開けて走っている車なんてねぇのに、大声で『いらっしゃいませ』とか行った所で聞こえねぇし、『ありがとうございました』って帰る車に頭を下げても、いちいち後ろを見ながら運転してねぇんだから、やる必要なくね?」
そんな風に、仲間に話していました。
それでも、やらないと先輩から怒鳴られるので、渋々やっていたんですよね。
でも、なぜ聞こもしないのにいらっしゃいませって言うのか、お客様は見てもないけど出ていく車に頭を下げるのか、その理由が自分の子供達を見た時にわかったのんです。
それは、まだ子供達が小さい頃でした。近所にできたキッザニア(子供達がやりたい仕事を体験できるテーマパーク)に行った時でした。
予約はしていても、その時間に入れる人数が決まっているキッザニア。もちろん早くから並んで、子供達が一番やりたい仕事ができるように準備をしてたんです。
そして、入り口が開き、子供達は自分がやりたい仕事へまっしぐら‼
当然、自分の息子と娘も消防士さんや看護師さんなんかに走って行くと思っていたのですが、なんとうちの子供達が走っていったのが、エネオスさん、そして次に並んだのがクロネコヤマトさんだったんです。
申し訳ないけど、えぇ~って思ってしまいました。(エネオスさんクロネコさんすみません)
消防士やお巡りさんへ走って行くと思っていたので、まさかそこに行くの?でした。
でもよ~く、子供達を見ているとわかったんですね。
エネオスへ向かった息子と娘ですが、小さなエネオスのユニフォームを着させてもらって、帽子をかぶり、説明もそこそこに、ガソリンスタンドのセットの中に入っていきます。そして大きな声であいさつをしているんです。
「いらっしゃいませ~」
「おーらい、おーらい、ストップで~す」
ーガシャーン(車が前の車にぶつかる音)ー(笑)
「れぎらーですか、ハイオクですか、れぎらーですね」(早っ)
「満タンはいしました~(^^)」
「ありがとうございあます」(帽子を取って頭を下げる)
そして、また次の車へ
子供達を見て気づきました。
僕の子供達がやっているのは、実際にモデルが居るんですね。
僕の家から通りを挟んだところに、本物のガソリンスタンド“エネオス”さんがあるんですが、子供達と同じように動き声を出しているスタッフがいるんです。そのお兄さんの真似をしているんですね。
キッザニアのスタッフに、ちゃんと動きを教えてはもらっているのかもしれませんが、5歳と3歳の子供達が完璧にこの動きをするのは、いつも見ているモデルとなる人が居たんです。
そしてなぜ、オープンと同時に、エネオスに走ったのか。それはいつも見ているスタッフの真似をしたかったからなんじゃないかなと、そしてお客様の車に向かってありがとうございますと深々と頭を下げて、後ろに車が居ない時でも後ろを振り返り、ありがとうございますと頭を下げてるんです。
更に2011年の震災を思い出しました。
あの時、東京では計画停電があったり、ガソリンも無くなっててガソリンスタンドが閉まっていました……。
そんな中、1台10リットルまでを入れる為にならんで入れてもらいました。その時のスタッフは、ガソリンが無くなり閉店後も、一人お店の前に立って、ガソリンを求めてくる車に、頭を下げてもうなくなってしまったんです。申し訳ありませんってやっていました。そのスタッフが悪いわけではないけど、一生懸命に頭を下げていたあのスタッフを真似ていたんですね。
僕がガソリンスタンドでバイトをしていて、どうせ挨拶したところで車の中に聞こえねぇんだから、挨拶しても意味ねぇじゃんって思っていたのは間違いでした……。
確かに、車の性能が良くなった今、どんなに大きな声でいらっしゃいませを言ったところで運転手さんには聞こえないかもしれません。それでもいいんです。街に住んでいる僕らにとって、2011年にガソリンスタンドが閉まって、電気も消えて、今まで聞こえていたあの大きな『いらっしゃいませ~』が聞こえないことが、不安を倍増させました。そして、日が経って営業が始まり、あの大きな声が活気となって聞こえてきたときに、大丈夫だってホッとしました。
また、帰る車にありがとうございますと頭を下げても、後ろを振り返らない限り帽子を取って頭を下げてるその姿は運転手の僕には見えないんです。でも、一緒に乗っている子供達は、その姿を見ていたんですね。
お客様に直接届くかどうかはわからないけど、ガソリンスタンドのスタッフが大きな声で言ってくれる『いらっしゃいませ』や『ありがとうございます』って頭を下げるその姿は、直接のお客様だけでなく、そのお店の周りで、お店の前を通る車の人たちが見ているんですよね。
だから、聞こえないなら意味がないなんて事はなくて、スタッフのみんなが大きな声で言う『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』を誰かが聞いてくれていて、その声に元気になる人が居たんですね。
だからこそ、街のホットステーションなのかもしれませんね(^^♪