情緒的サービス(相手の心に耳を傾け行動する)の実現には、相手の立場に立って考えろではなく、具体的なエピソードを話してあげると、聞いている人たちにサービス事例の引き出しが増えて、さらに自社らしさのその“らしさ”のストライクゾーンがはっきりとしてくるよっていうお話をしてきましたが、今回は直接お客様と接することのないお仕事であっても、その先を想像するだけで自分の仕事がお客様の感動を創っているよねって事がわかるお話です。
これは以前、小さな小さな精密部品を作っている大きな大きな工場にお邪魔した時のお話。
初めて入ったこの工場で、いったい何を作っているのかを工場長に聞いてみました。
「香取さん、この工場ではね、凄く小さな部品を作ってるんですよっ‼」
「ほぉ~、小さな部品ってどれぐらい小っさいんですか?」
「コレ見てぇ、わかるかな~」
そう言って工場長が虫眼鏡を渡してくれました。
そこにあったのは、この工場で作っている最も小さな部品で、ぱっと見ではチリのような細かいもので、虫眼鏡で見てみると、そのチリのよなもの一つひとつ全部が四角い小さな部品でした。
「うぁ、コレ凄いっすね~。虫眼鏡で拡大すると、ひとつひとつが全部ちっちゃい部品ですもんねぇ」
「そうそう、今見てもらったのはちょっと小さすぎるけど、基本は電子部品でね。世の中の電子機器の中に結構使われてたりするんだよね」
「へぇ~、こんなに小さいんですね。くしゃみしたら全部吹き飛びますよね(笑)」
「だから、作るスタッフはほんとに気を遣うんだよね~」
「この小さな部品って、例えばどんなものに使われてたりするんすか?」
「う~ん、そうだね。携帯電話に使われてたりするんだよ」
「おぉ~、そしたら俺のこのdocomoのガラケーにも使われてたりするんすか?」
「香取さんの持っている携帯に使われているかどうかはわからないんだけどね。うちの会社の部品かもしれないし、同じような部品を作っている会社のものかもしれないよね」
「そうだったんですねぇ~。なんか不思議ですね(笑)」
そんな会話をしながら、その工場のスタッフのみなさんの前で講演をさせていただきました。
無事に講演が終わって、工場長と話していると、面白いことに……。
「いや~、香取さん、お話最幸だったよ~」
「ほんとっすか~、ありがとうございます」
「香取さんが言ってた、いい話をしようって事はわかるんだけどさ、僕らのような工場の人間からするとあんまりいい話なんてないんだよね~」
「えぇ~そうなんですか? 探したらありそうですけどね」
「いやいや、反対に良くない話ならあるけどね(笑)」
「えっ、それどんな事っすか?」
「ほら、さっき講演前に話していたでしょ。僕らの会社はさ、携帯電話とかで使われている部品を作っててね。僕らが求められるのは、性能を上げながらも部品の大きさは小さく小さくしないといけないんだよね」
「おぉ~なるほど」
「ほら、昔の携帯電話ってものすごく大きかったりしたじゃない」
「はいはい、確かにデカかったっすよね~」
「あの大きな携帯電話が今ほど小さく高性能になるには、使われてる部品そのものが小さく高性能にならないと今のようにはならないわけでさ」
「そりゃそうですよね。部品が大きかったらこんなに小さくならないですもんね~。ほんとにあざっス(笑)」
「ハハハ~。香取さんは面白いね。
でもね、同じような部品を作っている会社は世界中にあるわけでさ、だから僕らの仕事はね、性能をよくしつつ、大きさも可能な限り小さくして、なおかつ使ってもらえるようにする為には値段も下げないといけないんだよね」
「う~ん、確かに……。
そうじゃ無かったら、僕らが普通にガラケーを持っていられないっすもんね」
「でね、香取さん。
僕ね、こないだの休みの日に嫁さんと買い物に行ってね。
そしたら、そこに100円ショップがあったんだよね。なんでも100円でこんなに種類があるんだって思ってみてたら、そこに爪楊枝があったんだよ。みたら一つのケースに爪楊枝がいっぱい入ってるでしょ、それで一体この爪楊枝1本はいくらなんだろうなって思って買ってきて、家で爪楊枝の数を数えたんだよ」
「ワオ。工場長暇ですねぇ~(笑)」
「でしょ(笑)
でも、そしたら本当にショックでね……。爪楊枝1本の値段が、僕らが作っている部品より高かったんだよ。
もうさ、ちょっと落ち込んだよね~( ;∀;)
どう、こんな話だといっぱいあるんだけね~。でもこれじゃあ、いい話にはならないもんね~(笑)」
「確かに工場長の言う通りすべらない話ならいいけど、それだとスイッチ入んないっすよね……」
「でしょう~(^^)」
「う~ん……。確かに値段で考えるとそうなりますかね……。
あっでも、俺ありますよ。携帯電話のいい話‼」
「えっほんと?」
「はい、確かに値段で言ったらさっき工場長がしてくれた通り、部品ひとつの値段は安いのかもしれないんですけど、そのおかげで俺らも普通に携帯電話を持てるようになりましたもんね」
「まぁそうだよね~」
「そんで、うちの家族は俺も嫁も、婆ちゃんも同じ携帯電話を持ってるんすよ。昔で考えたら携帯電話はものすごく高価なものだし、家族みんなでなんて相当なお金持ちじゃないと持てないわけですもんねぇ。
それに高性能になって今は携帯でなんでもできるじゃないですか?」
「うんうん」
「それで思い出したんですけど、ちょっと前に息子の幼稚園で初めての運動会があったんですよね。
長男は婆ちゃんが大好きで、運動会の前から婆ちゃんに、かけっこがあるから絶対に見に来て応援して欲しいって約束してまして……、うちのおふくろはちょっと持病があるんで、今は離れた千葉の実家で療養かねて暮らしてるんですよ。それでも孫に約束されたから絶対に観に行くからねって事になってたんです。だから俺も息子とかけっこの練習をして、婆ちゃんに1等賞取るところを見せようぜなんてやってたんですよね~。
ところが、運動会の数日前になっておふくろから連絡が来たんですよ。
『貴信、ちょっと身体が辛いから今度の運動会はちょっと観に行けそうにないんだよね。ごめんね虎ちゃんにうまく伝えておいて』ってことで、そりゃ仕方ないし息子にうまく伝えるねって言って、息子に言ったんですが、息子もせっかく練習して頑張ってるのに婆ちゃん来ないのか……って残念がってたんですけど、父ちゃんがちゃんとビデオをとるから、頑張れって事で、運動会の当日を迎えたんです。
いよいよ息子のスタートの時、僕がビデオを構えていたら、そうだって気づいたんですよ」
「……何を……ですか?」
「さっき、僕らの家族はみんな同じ携帯電話だって言ったじゃないですか?
その携帯電話なんですよ。
今の携帯電話ガラケーは、TV電話ができるじゃないですか?
それに気が付いたんです‼」
「おぉ~なるほど」
「もちろん、おふくろからTV電話はかけられないけど、かかって来た電話には出れるんですよ。だからすぐさま嫁にビデオカメラを渡して、そっからおふくろにTV電話をかけて実況生中継ですよ(笑)
最初、俺の携帯の画面は真っ黒でした。おふくろはそのまま電話に出てて、それで画面見て画面って伝えたら、そこには今かっけっこがスタートする孫の姿が映るんですよね。今、走るからここで応援してって伝えて、おふくろも携帯の画面に向かって、『虎ちゃん頑張れ~』ってなるんです。
遠く離れた場所で、おばあちゃんが孫の運動会をリアルタイムで観て応援できるってすごい事じゃないですか? ちょっと前で考えたら、中継車呼んでカメラ回してって……もういくらお金がかかるんだって話ですよ。それが、皆さんが部品を小さく小さくして、性能も高性能にしてくれて、値段も安くしてくれたおかげで、こんなドラマが僕の所でも起きるんですよ。すごくないですか?」
「おぉ~」
「工場長、確かに作っている部品一つの値段はって側面もあるかもしれないけど、だからこそ昔では夢だったことがこうして現実に起きてるって、やっぱりみんなの仕事のお陰ですもんね。僕でさえそんな事があるんだから、きっと世の中を探したら、そんな話は山のように出てくるんじゃないですかね。こんなエピソードを聞くとスイッチはいりませんか?」
「いやぁ~、香取さん、スイッチ入ったよ。
今の明日の朝礼で話すから、ちょっと紙に書いてくれない?」
「はっ、紙にですか(笑)」
(二人で大笑い)
僕らのようなサービス業であれば直接お客様と接するので、いろいろなドラマが目に見えてわかったりもします。ただ、今回のような物作りの所ではなかなか、直接お客様と接することのないお仕事もあります。それでも、自分がやっているその仕事の先には、必ずお客様が居て、そのお客様の中には今回のような物語が存在しているわけです。
大切なのは、自分のやっている仕事の先にあるものを想像してみることなんじゃないかなって思います。
もし、こんな風に想像できたとしたら、スイッチが入るんじゃないでしょうか?
是非皆さんのお仕事にも置き換えてみてくださ~い(^^♪